大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉地方裁判所 昭和53年(行ウ)10号 判決

原告 中里義高

被告 松戸税務署長

代理人 小野拓美 古俣与喜男 高野幸雄 大池忠夫 飯塚洋 ほか三名

主文

本件訴えのうち、被告が昭和五一年九月二九日付でなした原告の昭和四九年分所得税の更正処分について分離課税長期譲渡所得金額一、三一一万円を超えない部分の取消しを求める請求部分を却下する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五一年九月二九日、原告の昭和四九年度分所得税の分離課税長期譲渡所得につきなした更正処分中金九一〇万七、二四八円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

主文第一項、第三項同旨

(本案に対する答弁)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告の処分

(一) 被告は、昭和五一年九月二九日、原告の昭和四九年度分所得税につき分離長期譲渡所得の金額を金四、八九九万八、四二二円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の額を金三五万八、八〇〇円とする賦課決定処分(以下「本件過少申告加算税賦課決定処分」という。)をなした。

(二) その結果、原告が新たに納付すべき税額は本税金七一七万七、六〇〇円、加算税金三五万八、八〇〇円(合計七五三万六、四〇〇円)となつた。

2  被告の処分の違法

(一) 本件更正処分における金四、八九九万八、四二二円は原告が所有していた別紙物件目録(一)(二)記載の土地(以下「本件各土地」という。)を金六、三三〇万円((一)土地金四五〇万円、(二)土地金五、八八〇万円)で譲渡したことに対する課税長期譲渡所得金額であるが、右金四、八九九万八、四二二円のうち、金九一〇万七、二四八円を差し引いた金三、九八九万一、一七四円は、原告が保証していた訴外大志土木工業株式会社(以下「大志土木」という。)の訴外松戸市農業協同組合(以下「松戸農協」という。)に対する債務金三、九八九万一、一七四円の保証債務を履行すべくなした譲渡所得であり、右大志土木は倒産して資産はなく原告の求償権の行使は全く不能であるから、右譲渡所得金三、九八九万一、一七四円は所得税法六四条二項により、所得金額の計算上なかつたものとして算定しなければならないものである。ところが、右金額を基礎として算定した本件更正処分は違法である。以下、本件更正処分の違法性を詳述する。

(二) すなわち、原告が本件各土地を処分した当時、大志土木は訴外株式会社協和銀行(以下「協和銀行」という。)に対して金三九四万〇、二四二円、訴外新東亜交易株式会社(以下「新東亜交易」という。)に対して金四二一万一、七五〇円、松戸農協に対して金三、九八九万一、一七四円の借入金債務を負担しており、原告は右各債務について保証債務を負担していた。そして原告は本件各土地の売却代金でもつて右各保証債務を履行した。右売却代金については、さらに租税特別措置法(以下「措置法」という。)三一条の三による取得費として五パーセントの控除(金三一六万五、〇〇〇円)、譲渡費用(金一九八万四、五八六円)、措置法三一条二項による特別控除(金一〇〇万円)が認められるから、原告の本件各土地売却による譲渡所得は金九一〇万七、二四八円となるべきである。

売却代金6,330万円-5%控除316万5,000円-譲渡費用198万4,586円-特別控除100万円-保証債務履行4,804万3,166円=910万7,248円

しかるに、被告は協和銀行と新東亜交易への保証債務履行については所得税法六四条二項の適用を認めたが、松戸農協への支払については原告自身の借入債務であるとして同条項の適用を排した。しかし、松戸農協からの借入は、形式的には借主を原告と定めているが、後述するようにその実質は松戸農協と大志土木との手形割引であつて、原告はその保証人にすぎない。

(三) 松戸農協が形式的に原告を借主として貸付をした経緯は次のとおりである。

大志土木の代表取締役高比良昭男(以下「高比良」という。)は原告の娘婿の関係にあつたが、大志土木は松戸農協の組合員ではなかつたため、組合員である原告を通じて昭和四六年ころから大志土木の受取手形を松戸農協に持ちこんで割引き依頼することとした。松戸農協では持ち込まれた手形のうち、同一支払期日の手形の手形金合算額を農協の原告に対する貸付額、その支払期日を弁済期日として同時に原告振出の右同金額の手形貸付用手形を振出交付させて手形貸付を起こし、貸付額より貸付日から弁済期日(支払期日)までの利息と印紙代を天引きした金額を原告の口座に振り込むこととし、原告はその振り込まれた額と同額の原告振出、支払場所松戸農協の小切手を作成して大志土木に交付し、大志土木はこの小切手を松戸農協で現金化するという手順をとつて、大志土木は松戸農協から金融をえていた。松戸農協は持ち込まれた手形を交換に出して決済されるとそれをもつて原告への貸付の弁済があつたものとしていた。右の詳細は別表I記載のとおりである。

(四) ところが、大志土木は、昭和四八年九月五日不渡手形を出して倒産したことから、原告は、松戸農協から大志土木より割り引いた手形(金額合計金三、九八九万一、一七四円)の買戻しを求められ、前記のとおり本件各土地を売却しその代金中から右金員を支払つたものである。

(五) 前記(三)の経緯は、松戸農協において当初から認識し、右一連の貸付の借主は大志土木であると知つているものである。そして松戸農協が形式上原告を借主として扱つたのは、松戸農協が法律上員外貸付を禁じられているため便宜上かかる形式をとつたものにすぎず、原告は実質上大志土木の保証債務を負うにとどまるものである。

(六) さらに松戸農協からの真の借主が大志土木であることは以下の事実からも明らかである。

(1) 原告は、高比良を同道して松戸農協に行き、同農協の融資課長高橋清、融資係長牛尾福一と会い、同人らに大志土木の事業内容が良好であり、本件手形割引が大志土木の運転資金として必要である旨説明している。

(2) 松戸農協は原告が日常多額の資金を必要としないことを知つている。

(3) 昭和四八年五月の大志土木の山開きに松戸農協の参事芳野正己、融資課長高橋清が出席している。

(4) 割引手形の買戻しが大志土木の倒産を契機に行なわれた。

(5) 昭和四七年七月には大志土木の手形割引依頼のために、松戸農協の原告に対する根抵当権の極度額を金七、二〇〇万円に拡張した。

3  以上により、原告が本件各土地を売却した代金のうち金三、九八九万一、一七四円については所得税法六四条二項により譲渡所得金として扱うべきではないから(なお大阪地判昭和四二年七月四日税務訴訟資料第四八号二四四頁参照。)、本件更正処分のうち、原告が申告した譲渡所得金額金九一〇万七、二四八円を超える部分の取消を求めるとともに、その過少申告加算税額金三五万八、八〇〇円の賦課処分は右譲渡所得の存在を前提として賦課されているもので、譲渡所得がなければその前提を欠き違法なものであることが明らかであるから、この取消を求める。

二  被告

(本案前の主張)

1 原告は、後記被告の本案の主張1(課税の経緯)に記載のとおり、昭和四九年分の所得税につき同五〇年三月一五日に措置法三一条一項に規定する課税長期譲渡所得金額(以下「譲渡所得金額」という。)を〇とする確定申告書を提出した後、改めて同年七月三〇日右所得金額を一、三一一万円とする修正申告書を提出した。

2 ところで、税法上、税額は確定申告又は修正申告により確定するものとされ、右申告に係る所得金額を超えない部分の取消しを求めるにはまず更正の請求の手続によるべきものとされている(国税通則法二三条、所得税法一五二条、一五三条、一六七条参照)ところであるから、右手続によることなく直接右部分の取消しを訴求することは特段の事情のない限り許されない。

3 したがつて、原告の本件訴のうち、本件更正処分に係る譲渡所得金額について金九一〇万七、二四八円を超え右修正申告額である金一、三一一万円を超えない部分の取消しを求める部分は不適法なものというべきであり、却下されるべきである。

(請求原因事実に対する認否)

1 請求原因1の事実は認める。

2(一) 同2(一)のうち、原告が昭和四九年中に本件各土地をその主張の価格で売却したこと、本件各土地を譲渡したことに対して課税長期譲渡所得金額を金四、八九九万、八、四二二円と算定したこと、大志土木が倒産し資産のないことは認めるが、原告が松戸農協に対してその主張の金額の保証債務を負つていたことは否認し、その余は争う。

(二) 同2(二)のうち、原告が協和銀行および新東亜交易に対し連帯保証債務の履行または物上保証人としての代位弁済によりその主張の金額を支払つたこと(ただし、主債務者は、協和銀行に対する連帯保証債務については大志土木であるが、新東亜交易に対する物上保証については訴外大志興産株式会社―以下「大志興産」という―である)、右売却代金について、措置法三一条の三(当時)による取得費として五パーセントの控除(金三一六万五、〇〇〇円)、譲渡費用(金一九八万四、五八六円)、措置法三一条二項による特別控除(金一〇〇万円)が認められること、被告が原処分において協和銀行並びに新東亜交易に対する債務の履行につき所得税法六四条二項の適用を認めたこと、しかし被告は原告の松戸農協に対する支払の主張については同条項の適用を認めなかつたことは認める。原告が松戸農協に対しその主張の金額の保証債務を負つていたことは否認する。松戸農協からの金員の借主が原告でないとする主張は争う。

(三) 同2(三)ないし(六)は争う。

3 同3の主張は争う。

(本案の主張)

1 課税の経緯

原告の昭和四九年分の所得税に対する課税の経緯は別紙課税処分一覧表記載のとおりである。

2 本件更正処分の根拠および適法性について

(一) 総合課税に係る課税所得金額 金七四四万九、〇〇〇円

右は原告の申告額である。

(二) 措置法三一条一項による課税長期譲渡所得金額、金四、八九九万八、〇〇〇円

(1) 原告は昭和四九年中にその所有に係る本件(一)土地(船橋市大穴町六六二番一七山林一二五・六八平方メートル)を金四五〇万円で、本件(二)土地(松戸市北松戸三丁目五番一六畑六四五・六二平方メートル)を金五、八八〇万円でそれぞれ譲渡した。

ところで右土地は原告が昭和四四年一月一日前に取得したものであるため、その譲渡所得については措置法三一条(長期譲渡所得の課税の特例)が適用されることになる。

(2) 一方当時原告は協和銀行(北小金支店扱い)に対し主債務者を大志土木とする借入金債務について連帯保証をしており、また同じく新東亜交易に対し債務者を大志興産とする砕石プラント購入代金債務について原告の所有する松戸市上本郷字古ヶ作の二筆の土地上に根抵当権を設定し物上保証をしていたことから、原告は(1)の譲渡代金により右連帯保証債務の履行として金三九四万〇、二四二円及び物上保証に係る被担保債務の代位弁済として金一、六八四万七、〇〇〇円をそれぞれ各債権者に支払つた。

なお、大志興産の新東亜交易に対する代金債務の物上保証人は原告の外三名であつたため、原告の負担分は前記金一、六八四万七〇〇〇円の四分の一である金四二一万一、七五〇円であつた。

(3) しかしながら、大志土木及び大志興産は同年中に倒産しておりいずれも資産がほとんどないため、前記のとおり連帯保証債務等の履行をなしたことに伴う原告の大志土木及び大志興産に対する求償権の行使は不能となつたものである。

(4) したがつて、原告の履行した連帯保証債務額金三九四万〇、二四二円及ぜ物上保証人として代位弁済した額のうち原告の負担に係る金四二一万一、七五〇円については、所得税法六四条二項に該当するものとして前記(1)の土地の譲渡に係る譲渡所得の計算上右譲渡による収入がなかつたものとみなすべきことになるから、前記(1)の譲渡に基づく譲渡所得金額は次の計算のとおり金四、八九九万八、〇〇〇円(国税通則法二八条一項により一、〇〇〇円未満切捨て)となる。

A 収入金額 金六、三三〇万円

B 取得費(措置法三一条の三) 金三一六万五、〇〇〇円

C 譲渡費用 金一九八万四、五八六円

D 保証債務履行額 金八一五万一、九九二円

E 特別控除額(措置法三一条二項) 金一〇〇万円

A-B-C-D-E=金四、八九九万八、〇〇〇円

(5) 右の外、原告は、松戸農協(中央支店扱い)に対する大志土木の借入金債務についても原告が保証債務を負つていたものであり、また右松戸農協に対しても前記(1)の譲渡代金から右保証債務の履行として金三、九八九万一、一七四円を支払つたのであるから、右金額についても求償権の行使が不能となつたものとして本件譲渡所得の計算上所得税法六四条二項の適用が認められるべきであると主張する。しかしながら、松戸農協から借入れを受けていたのは大志土木ではなく原告自身であるというべきであるから、原告が同農協に対し保証債務を負つていたものとみなすべき余地はなく、したがつて、仮に(1)の譲渡代金から原告の主張する金額が松戸農協に対し支払われたとしても(なお、原告の申告によれば松戸農協に対する弁済は金二、三二五万一、一七四円とのことであつた。)それは原告自身が自らの借入金債務を弁済したものにすぎないというべきであるから、原告の右主張は失当である。

(三) 松戸農協からの借入金の借主が原告であることについて

(1) 原告は、松戸農協の准組合員であり、従前から同農協の貸付けを受けていたものであるが、昭和四七年七月一一日付けをもつて改めて同農協との間に元本極度額を七、二〇〇万円、債務者を原告とする根抵当権設定契約を締結し、以後右契約に基づき同農協から手形貸付の方法によつて金員の貸付けを受けていたものである。

その詳細は別表IIに記載のとおりであるが、うち原告の本件主張に係る同農協からの借入分は同表番号20ないし23、27ないし34、37ないし39、45ないし47、49、50、53ないし55、57ないし59、61ないし64、66のものである(なお65は27の、69は32、34、46、49、65の、70は45の一部の、71は38及び45の一部の、74は50の、75は53、54の、77は55の各書替分である。80は58、59、69、70、71、74、75、77の合計額に更に金二〇〇万円が加算され書替えられたものである。)。

したがつて、右根抵当権設定契約及び右契約に基づく別表IIでの貸付状況等からみて、原告主張の本件借入れは同農協の原告自身に対する貸付行為の一環としてなされたものとみざるを得ず、そのため仮に右借入れに係る金員がその後原告の主張のとおり大志土木に渡されたとしても、それは原告自身の借入れに係る金員の使途の問題にすぎないというべきである。

一方同農協としても、右のような貸付けの経緯からみて、実質上も本件貸付分に限り大志土木に貸付けたという認識を有していたとはおよそ考えられないところである。

(2) なお、昭和四八年五月二日に同農協から原告に対し、貸し付けられた金四〇〇万円及び金一〇〇万円の合計金五〇〇万円については、利息等が控除された後の金四八四万五、六〇三円(別表ⅠNo.2)が原告の当座貯金口座(甲第三号証の五)に入金されておらず、はたして当該金員が大志土木に交付されたものか否か不明である。また、同年七月三〇日に原告に貸し付けられた合計金一、四〇〇万円については利息等が控除された後の金一、三五四万〇、七三三円(同表ⅠNo.3)が原告の当座貯金口座(甲第三号証の八)に入金されているが、右口座元帳の記載からみて原告の振出した小切手金額は金一、三四一万〇、七三三円であつたことが窺えるため、その差額金一三万円は原告の当該口座に残され原告が取得したものと考えられる。

(3) 松戸農協における組合員に対する融資方法(貸付方法)は、手形貸付、証書貸付、当座貸付(当座貸越)の三方法に限定され、このほかに、いわゆる手形割引による貸付はいまだ一度も行なわれていない。そして右三方法のいずれにおいても、松戸農協は必ず事前に農協取引約定書を借主との間で取り交すとともに人的・物的担保を徴した上で貸付を実行していた。

一方、松戸農協においては、定款上一定の限度の下に非組合員に対する貸付(員外貸付)も例外的に実行できることとなつているが、その場合にも前記同様農協約定取引書、人的・物的担保、借用証を徴することとしている。そして、松戸農協においては、取扱過誤による以外にいまだ員外貸付が実行されたことはない。

(4) 大志土木および高比良は、いずれも松戸農協に取引口座を持たず、また組合員となるための所定の出資手続をとつていない。

(5) 松戸農協の原告に対する手形貸付は、昭和三六年当時からほとんど商業手形を償還財源としてなされていたが、右手順にあたつては取立依頼と手形貸付とが同時に行なわれており、また右取立依頼手形には必ず大志土木の裏書があつたというものではなく大志土木以外の裏書の分も含まれており、更に右手形を同農協に依頼するにあたつては、原告は自ら手形の裏書をするにとどまらず、必ず自らが同農協に持参し、また手形貸付を受けるため自ら右取立依頼手形と支払金額を同一とする手形を同農協備付けの所定の手形用紙を用いて振出し、同農協に差し入れていた。一方松戸農協は右取立依頼手形については、その都度その旨を原告宛の代金取立預り帳に記載し、取立依頼手形の履行期日において取立入金したうえ、原告に対する手形貸付金の返済に当てていた。

また、原告に対する手形貸付(例えば甲第二号証の一の金五四万円を例にとる)については右貸付に係る貸付利息及び印紙代(甲第二号証の一の金八、二七三円)を差し引いた残額(甲第二号証の一の金五三万一、七二七円)を同人名義の当座貯金口座に入金(甲第三号証の一)するといつた一連の手続および資金の流れ等からも松戸農協が本件の手形貸付を実行したのは原告に対してであつて、大志土木あるいは高比良に対してでないことは明らかである。

3 本件過少申告加算税賦課決定処分の根拠および適法性について

既述のとおり、本件更正処分が適法であるから、被告は国税通則法六五条一項の規定を適用し、本件更正処分により納付すべき税額金七一七万七、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨て)に対して一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金三五万八、八〇〇円の過少申告加算税の賦課決定処分を行なつたものであり、本件更正処分により納付すべき税額の基礎となつた事実が、更正前の税額の基礎とされていなかつたことにつき国税通則法六五条二項に規定する正当な理由があるとは認められないから、右賦課決定処分は適法である。

三  被告主張に対する認否並びに反論(原告)

(本案前の主張に対し)

原告が昭和五〇年七月三〇日、被告主張のとおりの修正申告書を提出したこと、修正申告時の額を下回る部分については特段の事情のない限り更正の手続によるべきであることは認める。右特段の事情については原告は主張しない。

(本案の主張に対する認否並びに主張)

1 被告の本案の主張1のうち、被告主張のとおりの修正申告をしたことは認める。

2(一) 同2(一)は認める。

(二) 同2(二)は争う。

(三)(1) 同2(三)(1)のうち、原告が昭和四七年七月に(その妻中里さだとともに)その所有する土地六筆に松戸農協のために極度額金七、二〇〇万円の根抵当権を設定したこと、原告の松戸農協からの借入金が別表II番号20ないし23、27ないし34、37ないし39、45ないし47、49、50、53ないし55、57ないし59、61ないし64、66であることは認めるが、その余は争う。

(2) 同2(三)(2)のうち、差額金一三万円が原告の利益であるとの主張は否認する。

(3) 同2(三)(3)は争う。松戸農協は非組合員である入山八重子に対して金三〇〇万円、谷川正に対して金五、〇〇〇万円を貸付けており、員外貸付を行なつている。

(4) 同2(三)(5)は争う。甲第一号証、第一四号証の取立手数料の欄をみると、手数料をとられているのは甲第一号証では七通の約束手形、甲第一四号証では二通の約束手形にすぎず、その余の一五九通の約束手形は取立手数料をとられていない。これは原告主張のように手形割引であつたことにほかならない。例外的に取立手数料をとられている九通のみが純粋の取立依頼手形なのである。

3 同3は争う。

第三証拠 <略>

理由

一  本案前の抗弁について

原告が昭和五〇年七月三〇日、昭和四九年分の所得税につき租税特別措置法三一条一項に規定する分離課税長期譲渡所得金額を金一、三一一万円とする修正申告書を提出したことは当事者間に争いがない。ところで、原告は本件訴において右譲渡所得金額金九一〇万七、二四八円を超える部分の取消しを求めているが、前記認定の修正申告額(一、三一一万円)を超えない部分の取消を求めるには更正の請求の手続によるべきであつて、右手続によらず直接右部分の取消しを訴求することは特段の事情のない限り許されないというべきである。本件訴において原告が右特段の事情について主張しないことは訴訟上明らかであるから、右一、三一一万円を超えない部分の取消しを求める請求部分は不適法であり却下を免れない。

二  被告の処分について

被告が、昭和五一年九月二九日、原告の昭和四九年分所得税につき本件更正処分および本件過少申告加算税賦課決定処分をしたこと、その結果、原告が新たに納付すべき税額は本税金七一七万七、六〇〇円、加算税金三五万八、八〇〇円(合計七五三万六四〇〇円)となつたことは当事者間に争いがなく、その余の原告の昭和四九年分の所得税に対する課税の経緯が別紙課税処分一覧表記載のとおりであることにつき原告は明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

三  本件更正処分の根拠および適法性について

1  原告が昭和四九年中に、本件(一)土地を代金四五〇万円で、本件(二)土地を代金五、八八〇万円(合計金六、三三〇万円)で売却したこと、被告が、右譲渡に関して(分離)課税長期譲渡所得金額を金四、八九九万八、四二二円(国税通則法二八条一項により一、〇〇〇円未満切捨てにより金四、八九九万八、〇〇〇円)と算定したこと、大志土木が倒産し資産のないこと、前記売却代金のうち金八一五万一、九九二円については原告が協和銀行及び新東亜交易に対する保証債務の履行または物上保証人としての代位弁済によつて支払つたものであり(新東亜交易に対する主債務者が大志土木であるか、大志興産であるかは争われているが、そのいずれであるかは本件事案の解決に関係ないので認定を省略する)、右に対して被告が原告の確定申告および修正申告どおり所得税法六四条二項の適用を認めたことは当事者間に争いがない。

2  原告は、被告が算定した課税長期譲渡所得金額金四、八九九万八、四二二円のうち金三、九八九万一、一七四円については原告が松戸農協に負担していた保証債務の支払いに充てたものであり、所得税法六四条二項の適用が認められるべきであると主張する。そこで、まず、原告が松戸農協に対して負担していた債務の性質―主たる債務か従たる債務か―について判断する。

(一)  原告が昭和四七年七月に(その妻中里さだとともに)その所有する土地六筆に、松戸農協のために極度額金七、二〇〇万円の根抵当権を設定したこと、原告(名義)の松戸農協からの借入金が別表II番号20ないし23、27ないし34、37ないし39、45ないし47、49、50、53ないし55、57ないし59、61ないし64、66であることは当事者間に争いがない。

(二)  右争いない事実と、<証拠略>を総合すれば次のとおり認められる。

(1) 松戸農協における組合員に対する融資方法は、手形貸付、証書貸付、当座貸付の三方法に限定されていた。そのいずれの場合においても、松戸農協は貸付に際し、事前に農協取引約定書を借主との間で取り交すとともに、人的・物的担保を徴していた。そして融資を行なうにあたつては、単に窓口の係員のみの判断によることなく、禀議書を作成して融資課長等責任者の決裁を経て行なわれる等慎重な手続がとられていた。

右以外に、農協が、いわゆる手形割引の形式で組合員に金融を与えることは昭和四八年の法改正がなされるまでは農業協同組合法上許されておらず(現行法については一〇条六項一号参照)、松戸農協においても昭和四九年まで全く手形割引を行なつていなかつた。

一方、松戸農協においては、定款上一定の条件・限度のもとに非組合員に対する貸付(いわゆる員外貸付)も実行できることとなつており、その場合においても、組合員に対する貸付と同様に借主と農協取引約定書、借用証を取り交し、人的・物的担保を徴する扱いとなつていた。本件訴訟上判明したものだけでも松戸農協は二件(入山八重子、谷川正)の員外貸付を行なつていた。谷川の場合は金五、〇〇〇万円の借入に際し自己名義で農協取引約定書、借入申込書を提出し、抵当権を設定するとともに二名の連帯保証人をつけている。入山の場合は金三〇〇万円を入山と原告とが連帯債務者となつて借用証書を作成し、他に連帯保証人をつけている。

なお、右の員外貸付の点について証人牛尾福一の証言中には、右二名に対する融資は過誤によつてなされたもので、松戸農協においては過誤による以外にいまだ員外貸付が実行されたことはない、とする部分がある。なるほど、入山に対する貸付については組合員との連帯債務として行なつているから、完全な意味で員外貸付ということはできないにしても、組合員と並べて非組合員との二名を債務者として扱つている以上、部分的には員外貸付というべきであるし、その連帯保証人の住所、氏名から同人が右入山の親族であることが推認しうることも考慮すれば、右貸付において実際に金融を得るのは入山であると考えるのが自然であり、右をもつて過誤による員外貸付と断定することはできない。また、谷川については、牛尾証人は組合員となることを前提として貸付けたものである旨証言し、その借入申込書である<証拠略>中にも谷川が新しく准組合員となるものであることの記載が見受けられるが、その後現在まで谷川が松戸農協の組合員(准組合員を含めて)となつたと認めるに足る証拠はない。してみると、結果的には、現在においても非組合員に対する貸付がなされたことにはかわりなく、また、貸付当時は(その後、准組合員になることが予定されていたとしても)、松戸農協において、谷川が非組合員であることを承知の上で貸付を行なつたというべきであるから、前記認定に反する証人牛尾福一の証言部分は措信しない。

(2) 原告は昭和一八年に東京都荒川区内から疎開して以来松戸に居住し、かなりの土地・家屋を所有して不動産貸付業を営み、昭和四四年には北松戸駅前に中里ビルを建築し、株式会社中里として右事業を行なつている。松戸農協には昭和二三年四月一日に出資して組合員資格を取得し、原告は、かなりの不動産を有していることもあつて同農協の高い信用を得ていた。昭和三五年一〇月には妻さだ所有の土地(当時の松戸市上本郷字仲台一二七三番、同一二六三番)に債権元本極度額金五〇〇万円とする根抵当権を設定して証書貸付による借入を行ない、また昭和三六年一月には手形貸付による借入を行なつた(右の担保については、昭和三七年一月八日受付でその所有する松戸市上本郷字北台二二二〇番一、同二二二一番一、同二二二三番一に債権極度額金三〇〇万円とする根抵当権が設定された)。右担保については、その後二二二〇番一、二二二一番一、二二二三番一については昭和四〇年五月に債権極度額が金五〇〇万円に変更され、一二七三番、一二六三番については、中里さだ所有の松戸市北松戸三丁目五番一二を加えて、昭和四四年六月に元本極度額金二、〇〇〇万円の根抵当権が重ねて設定され、ついで昭和四七年七月には従来の根抵当権をすべて抹消したうえで、極度額金七、二〇〇万円の根抵当権が二二二〇番一、二二二一番一、二二二三番一、五番一二、一二七三番、一二六三番に設定されている。

右手形貸付において、昭和三六年当時から、ほとんどの場合商業手形がその償還財源となつており、かかる手形の振出人は特定されず複数であつた。

(3) 大志土木は、原告の娘婿である高比良が代表取締役であり、土木建築請負等を目的として昭和四二年一二月一六日東京都渋谷区八幡通二丁目一七番地において設立された。その後北松戸駅前の中里ビル完成によつて、原告の好意により、無償で同ビル四階に入居し(大志土木事務所内に株式会社中里の事務所も併置する格好となつた)、昭和四六年四月一〇日、登記簿上も右中里ビルに本店所在地を移転した。大志土木は協和銀行(北小金支店)、関東銀行(松戸支店)を取引銀行とし、受取手形の割引、資金借入等を行なつていた。それらについて、大志土木としては資産を有していなかつたため、自ら物的担保を設定することができず、右取引に関しては原告が保証人となり、かつ手形についても原告が裏書をする形で取引が行なわれた。

ところが大志土木は日本列島改造論という当時の風潮に影響されて営業を拡大していつたことから、右金融機関の融資枠では資金に不足を来たすことになつた。そこで高比良は、原告が松戸農協の組合員であることを利用して、大志土木も高比良も右農協の組合員ではないが、農協から融資を得ようと考え、原告の了承を得た。

(4) 昭和四五年一〇月ころ、原告は高比良を同道して松戸農協を訪れた。両名(以下「原告ら」ということがある。)は応接室に通され、そこで融資担当者数名による面接を受けた。その際原告らは、大志土木の受取手形について原告の裏書によつて手形割引による融資を得たい旨のべるとともに、原告と高比良の関係、大志土木の営業内容等について説明した。それに対して松戸農協は、手続上手形割引による融資は法律で許されていないことから、手形貸付による融資、すなわち、大志土木の裏書のある受取手形に原告が裏書をしたうえで右手形の持込み(取立委任手形として)があると、松戸農協では右手形のうち同一支払期日の手形金合算額を原告に対する貸付額、その支払期日を弁済期日として、同時に手形貸付用の農協所定の手形用紙を用いて原告振出の右同金額の手形を振出交付させて手形貸付をおこし、貸付額より貸付日から弁済期日(受取手形の支払期日)までの利息と印紙代を差し引いた金額を原告の口座に振り込む、そして実際上前記取立委任手形を償還財源とするという方法による融資を承諾した。なお、原告としては、大志土木の受取手形を利用して現実に融資を受けられればその目的を達することから、取引形態として手形割引か手形貸付かは、特にこだわることはなかつた。そしてその際原告らは、大志土木の会社の登記簿騰本はもとより会社の営業内容を示す書類(商業帳簿等)を松戸農協に提出することはせず、また同農協としてもかかる書類の提出を求めず(これはその後においてもなかつた)、また資産その他の信用度も格別調査問合せをすることがなかつた。また、大志土木も高比良も、松戸農協との間で農協取引約定書はもとより、手形取引・手形貸付に関する何らの書面も取り交していない(同農協の員外貸付においてかかる手続がとられることは既述のとおりである)。

なお、<証拠略>中には右認定に反し、松戸農協としては大志土木なり高比良については、昭和四八年五月に那須の山開きに行くまで知らなかつたとする部分があるが、<証拠略>によれば、昭和四五年一〇月一二日から同年一一月一〇日までの当座貯金元帳の欄外に大志土木の電話番号がメモ書きされており、同様のメモは甲第一六号証の二三ないし三二、同三五、三六、三八ないし六八まで記載されており、さらに前記認定事実に徴すれば、当時松戸農協において大志土木または高比良を知らなかつたということは考えられず前記両証人の証言は措信しえない。もつとも、この点に関し、<証拠略>中には、右メモは原告に対する連絡先として記載されたのかもしれない旨の記載部分があり、また<証拠略>中には高比良の電話番号の記載の上方に「関係なし」と記載され、<証拠略>では高比良の氏名と電話番号を棒線で消した跡が窮えるが、かかる記載自体不自然というべきであるし、かつ右記載をもつてしても、それまで長期間にわたつてメモされていた事実をすべて誤記とみることは到底考えられない。

(5) 松戸農協・原告間の前記(4)の方法による融資は、右約定に従つて、必ず原告自身が(高比良を同行することが多かつたが)松戸農協に赴き、所定の手続に従つて行なわれた。手形貸付用の手形については、署名・捺印を除くその余の手形要件は松戸農協の融資担当者によつて記載されたが、署名・捺印は原告自身が行なつていたし、その都度手形貸付金計算書が原告宛に交付されていた。また、原告らの受取手形を松戸農協に交付するに際しても、予め原告宛に手渡してあつた代金取立手形預り通帳を原告において持参し、その都度、そこに必要事項の記載を受けて返還されていた。右一連の手続について、原告から異論が出されることは一度もなかつた。そして、原告は一旦株式会社中里の事務所に帰つてから前記貸付金計算書と同額の原告振出支払場所松戸農協の小切手を作成して大志土木に交付し、大志土木はこの小切手を松戸農協あるいは他の金融機関に呈示して現金化する、という手順で金融を得ていた(なお、右小切手の額面は、原告が従前大志土木に貸付金がありその未払いのある場合は右未払金額を控除して小切手を振出したこともあつた。昭和四八年七月三〇日に原告に貸付けられた合計金一、四〇〇万円について、利息等が控除された後の金額金一、三五四万〇、七三三円が原告の当座貯金口座に入金されているが、原告が大志土木に振出した小切手金の額面は金一、三四一万〇、七三三円となつていて金一三万円不足しているが、その理由は右の趣旨から理解するのが相当である)。右の手順で手形貸付が行なわれた結果、原告が松戸農協から手形貸付を受け一たん原告名義の貯金口座に入金されるけれども、そのほとんどの金員は原告から大志土木への小切手でもつて、大志土木によつて現金化され、現実には原告の手元には残らなかつた(なお、昭和四八年五月二日の貸付金五〇〇万円が大志土木にまわされたといえるかどうかは明らかではない)。そしてこの原告への融資金が大志土木に流れ、大志土木がこれを活用していたことを松戸農協においても当初から知つていたが、松戸農協は、この点について原告に対し異議を申し立てることなく、前述のような形態で原告に対し融資を続けていた。なお、このような融資を続けることによつて、原告は、とくに大志土木から謝礼その他の経済的利益を受けることはなかつた。

ところで、原告は、一六八通の手形のうち取立手数料を徴収されたのはわずか九通にすぎず、その余の一五九通については取立手数料をとられていないから、これらは手形割引である旨主張し、取立手数料の徴収の有無についてはこれに沿う証拠<証拠略>がある。しかし、<証拠略>によれば、県内あておよび東京交換で決済できるものは取立手数料は無料とされていたこと、<証拠略>で取立手数料が徴収されている手形の支払地はいずれも千葉県外であること、既述のとおり松戸農協においては過去一度も手形割引を行なつていなかつたことを勘案すれば、かかる原告の主張を認めることはできないというべきである(ちなみに融資方法が手形割引か手形貸付かということは、前記のとおり原告が全て裏書人として署名捺印し、これを経たうえで融資されていることからみれば、松戸農協からの借主が原告であるか大志土木であるかという本件の問題では決め手になることはない)。

なお、この間、既述のとおり松戸農協の原告に対する根抵当権の債権極度額を従前の金三、〇〇〇万円から金七、二〇〇万円に変更しているが、右の措置は松戸農協と原告との取引額の増大に対処してなされたものというべきである(昭和四七年七月一一日当時、原告の証書貸付による借入額は金一、三〇〇万円あり、また手形貸付による借入額は合計金三、八二〇万七、六六五円に達している。<証拠略>参照)。

この点に関し、証人牛尾福一、同高橋清の証言中には、右極度額の変更は、松戸農協の上部団体である県の中央会の会計監査の結果、松戸農協と原告との融資関係に係る根抵当権の設定状態が好ましくないとの指摘がなされたことから、これを正常化するため松戸農協の都合で行なわれたものであつて、大志土木への融資とは関係がない旨供述し、<証拠略>には、ほぼ右と同旨の記載がある。既述のとおり本件の手形貸付の債務者は原告であつて大志土木ではないから、右極度額の変更が原告の主張するような大志土木の手形割引のためであるということができないのはいうまでもないが、大志土木が入手した手形をさらに原告が裏書したうえでそれを償還財源として手形貸付をうけたことで、当時原告への貸付額が増大していたことは既述のとおりであるから、かかる取引に対処するために極度額の変更が行なわれたとみるのが金融取引の実情に合致するというべきである。当時原告への根抵当権は、証書貸付に関して金五〇〇万円、手形貸付に関して金五〇〇万円、証書貸付・手形貸付に関して金二、〇〇〇万円合計三、〇〇〇万円の担保しか設定されていなかつたのであるから金五、一二〇余万円の貸付金を担保するには不十分であることは明らかであり、県中央会が右の担保設定状態を好ましくないと指摘したとしても、極度額変更については前述した原告への貸付状況および今後予想される原告への融資の増大―結局、その資金の多くは大志土木に流れるのであるが―が大きな原因となつたことは明らかである(なお、<証拠略>中には、原告が変更前に設定していた根抵当権の極度額が金六、〇二〇万円になつたかのような記載部分がある(なお証人高橋清の証言中にもその趣旨に沿うのがある)が、<証拠略>中の担保物件表示の物件の登記簿騰本である<証拠略>およびその他の物件の登記簿騰本である<証拠略>によつても変更前の極度額を金六、〇二〇万円と変更登記されたことが認めることはできない(通常極度額が変更されればこれらの物件の変更登記がなされるとみてよい)から、右<証拠略>の記載および証人高橋清の証言をもつて変更前の極度額が金六、〇二〇万円であると認めることはできない)。

(6) ところが、昭和四八年八月一〇日、原告から依頼のあつた取立手形二通(手形番号BA24873、BA24863のもの。甲第一号証の四参照。なお別表Ⅱ27参照。)が不渡りとなつたため、松戸農協は原告に対する新規の貸付をひかえ、残債務を一本にまとめていつて原告に対して手形貸付金の回収をはかつた。一方、大志土木も昭和四八年八月、自ら振り出した手形でも不渡りを出して倒産している。

右の点について、証人高橋清の証言中には、原告に対する貸付金回収と大志土木の倒産とは関係がない旨供述する部分があるが、既述のとおり貸付金の回収をはかつた時期と大志土木の倒産の時期とは一致していること、原告に対する手形貸付は大志土木の受取手形を(原告が裏書したうえで)償還財源としてなされていたこと、同証人の証言によれば原告自身はもともと資産家であつて貸付金の回収に関して少なくとも最終的には不安はなかつたことを総合すれば、貸付金の回収は、原告の取立依頼にかかる二通の手形の不渡のみならず、大志土木の倒産が大きな一因であると認めるのが相当であり、証人高橋清の証言中右認定に反する部分は措信しない。

(7) 以上のとおり認められる。右認定によれば、大志土木の受取手形をもとに(原告の裏書を経て)松戸農協において手形貸付をうけた者は原告であり、大志土木が直接、手形貸付をうけた者(原告はその保証人)ということはできない。けだし、前記手形貸付は法的には昭和三六年当時成立した原告と松戸農協との間の基本的・継続的な取引契約をもとになされ、その担保のための根抵当権の極度額がその取引額の拡大に応じ変更されたものであつて、とくに大志土木との間の新たな与信契約が成立したものとは認められないからである。右認定に反する部分の証人高比良昭男の証言および原告本人の供述は措信しない。

(三)  ところで、原告は、本件借入の主体は形式的には原告であるとしても、実質的には大志土木である旨主張するのでこの点について判断する。

前記(二)認定によれば、本件手形貸付は名義上すべて原告を主債務者として行なわれており、実際の手続も原告自らが農協所定の貸付用手形に署名・捺印してなされていること、右一連の手形貸付手続について原告からは何ら異論が出なかつたこと、松戸農協が本件手形貸付を行なつたのは資産家である原告の信用ゆえに行なわれたものであつて松戸農協としては大志土木からは、担保の設定はもとより、何らの書類も提出されていないのであり、金融機関の取引の相手方とすれば大志土木の信用、資産などいわゆる信用度についてなんらかの調査・照会等をするのが当然なのにこの点についてなんらなされていないことなど、大志土木を取引の相手とは考えていなかつたという事実を勘案すれば、本件手形貸付の主債務者は形式上も、実質上も原告であると認めるのが相当である。

もつとも、本件手形貸付は大志土木の受取手形を償還財源としてなされたものであること、右手形貸付によつて実際に金員を利用したのは大志土木がほとんどであつたこと、大志土木の倒産を契機に貸付金の回収がはかられたことは、前記(二)認定のとおりであるから、原告が松戸農協から融資を受けた金員が実際上大志土木に流れていたことは松戸農協において知つていたものであるが、そうだからといつても松戸農協において、前記の諸手続をとり原告あての貸付の形態をとる以上、本件手形貸付の実際上の債務者を大志土木であると認めることはできない。

もつとも原告本人の供述中には、原告の意思としては貸付金を実際に利用する大志土木が借入れの主体であつて原告は大志土木の負担する債務を保証する意であつたとする部分がある。

しかし、既述のとおり松戸農協はあくまで原告を右貸付の債務者として考えていたのであり、その趣旨に従つた手続を原告において異論を示すことなく行なつていたのであるから、それはあくまでも大志土木と原告との間の利益の帰属の観点からの原告の内心の意思であるにすぎず、たとえ、これにより原告は大志土木から何らの利益をあずからなくても、これをもつて原告が松戸農協との取引に関し法的に大志土木の保証人であると認定することはできない。

そして、所得税法六四条二項の適用を受けるためには、単に納税義務者が経済的利益をあげず保証する内心の意思で該行為をなしたというのでは足りず、法的に保証債務の履行としてなすことを要すると解するのが、税の負担の公平からみて相当である。

(四)  してみると、金三、九八九万一、一七四円に関して原告が松戸農協に支払つたのは、自己の主債務の弁済としてなされたものというべきであるから、本件各土地の譲渡代金のうち、松戸農協への右債務の弁済金については、所得税法六四条二項にいう保証債務を履行するための資産の譲渡がなされたということはできず、本件更正処分が同条の適用を否定したのは相当というべきである。

3  本件各土地の売却について、措置法三一条の三(当時)による取得費として五パーセントの控除(金三一六万五、〇〇〇円)、譲渡費用(金一九八万四、五八六円)、措置法三一条二項による特別控除(金一〇〇万円)が認められることは当事者間に争いがないから、右事実と前記1、2で認定した事実によつて本件各土地の売却に基づく譲渡所得金額を算定すれば次のとおりである。

A  収入金額(売却代金額) 金六、三三〇万円

B  取得費(措置法三一条の三) 金三一六万五、〇〇〇円

C  譲渡費用 金一九八万四、五八六円

D  保証債務履行額 合計金八一五万一、九九二円

内訳 協和銀行 金三九四万〇、二四二円

新東亜交易 金四二一万一、七五〇円

E  特別控除額(措置法三一条二項) 金一〇〇万円

A-B-C-D-E=金四、八九九万八、〇〇〇円

(国税通則法二八条一項により一、〇〇〇円未満切捨て)となる。

よつて、本件更正処分は適法というべきであり、右に関する原告の本訴請求は理由がない。

四  本件過少申告加算税賦課決定処分の根拠および適法性について

本件過少申告加算税賦課決定処分は、本件更正処分が適法であることを前提として、国税通則法六五条一項の規定の適用により本件更正処分により納付すべき税額金七一七万七、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨て)の五パーセントに相当する負担を課する租税である。そして本件更生処分が適法であることは前記認定のとおりであるから、本件過少申告加算税賦課決定処分も適法というべきである。もつとも、右の過少申告について、更正処分によつて新たに納付すべき税額の計算の基礎となつた事実が、更正前の税額の計算の基礎とされていなかつたことについて、正当な理由があると認められるものがある場合には、その部分については課せられないことはいうまでもない(国税通則法六五条二項)が、右の正当理由については納税義務者側(原告)に主張・立証責任があるところ、本件においては原告は単に法律の解釈を誤つたにすぎず、右が正当理由とならないことは勿論、他に右正当理由を認めるに足りる証拠はないから、本件過少申告加算税賦課決定処分の適法性を覆えすことはできない。

五  よつて、原告の本件訴えのうち、被告が昭和五一年九月二九日付でなした原告の昭和四九年分所得税の更正処分について分離課税長期譲渡所得金額金一、三一一万円を超えない部分の取消しを求める請求に関する部分の訴は不適法であるからこれを却下し、その余の原告の本訴請求はすべて理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 奈良次郎 吉田健司 鈴木経夫)

別紙 物件目録 <略>

別表 I、II <略>

別紙 課税処分一覧表 <略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例